イーテキスト研究所

デジタル教材開発史

1.はじめに

 筆者は教科書出版社に勤務していた1989年( 平成元年) に企画開発室に配属されデジタル教材の開発を担当することになった。

 以来30 年、現場の先生方とともに開発してきたデジタル教材を振り返ってみる。

2.1987 年 パソコン通信で全国の先生方と知り合う

 1986 年にNEC が商用パソコン通信サービスPC-VAN を開始。まもなくSIG「STS( 教育&ソフト)」ができあがった。

 STS( 教育&ソフト)(以下、STS)では「掲示板」で情報交換がなされ、「開発室」でBASIC やKiT による教材が蓄積されていった。

 STS に参加していた私は1989 年に「CAI 実践とソフト開発」を刊行した。パソコン通信でなにができるか、パソコン通信を介してのCAI ソフトづくりの現状と教育実践の一端を紹介した。合わせてフロッピーディスクによるプログラムの頒布サービスを行った。

「CAI 実践とソフト開発 」STS( 教育&ソフト)編 大日本図書刊

3.1990 年 KiT の登場

 1990 年にSTS にデジタル教材オーサリングシステムKiT が加藤譲氏によって公開され、KiT による教材開発が始まった その成果を1994 年に2 冊にまとめた。

「KiT パーフェクト」「KiT 教育事例集」KANAE PROJECT 編著 1994 年大日本図書刊

4.KiT による教材開発

 KiT は、MS-DOS からWindows3.1,95 へと進化し、大日本図書では小中の理科デジタル教材をKiT でつくりあげた。

[小学校]

[中学校]

5.「たのしい算数セット」

 「たのしい算数セット」は山口県の僻地の小学校で、複式学級の授業のために岩崎利充先生が自らBASIC で組まれたプログラムがベースとなっている。

6.「数学サポート」

 90 年代のパソコン導入のデフォルトとして採用されていたのが数学シミュレーションソフトだった。当時の学習指導要領では図形領域に立方体の切断の指導があり、数学シミュレーションで取り上げられることが多かった。

 大日本図書でも数学シミュレーションソフトの開発に取り組み「数学サポート」として売り出した。

7.図鑑「体のしくみ」

 人体解剖図の第一人者である伊藤一穂氏にイラストをお願いしてディレクターで「体のしくみ」の制作にとりかかり、1994 年から3年を費やしてWin & Mac ハイブリッド板を完成させた。

Mac & Win ハイブリッド版「体のしくみ」

8.インターネットで教材の配信

 1995 年から実験的にホームページを開設して理科画像や写真を中心に提供し、1996 年4 月1日に大日本図書のホームページが正式オープンした。3 月の準備号から掲載し始めた関東学院小学校の八木澤薫先生の写真は2今でも「おおきくなあれ」として連載されている。

9.2001 年度e スクェアで児童の表現ツールiFriend の開発

 CEC の平成13 年(2001 年) 度 E スクェアプロジェクト「先進企画」テーマ「地域からの発信を支援する国際教育教材ネットワーク」事業を受託した。

 「地域発信」チームは、和歌山県、神奈川県、三重県の小学校5校で構成し、総合的な学習の時間を中心にして学校地域での児童の取り組みをホームページで発信した。そのとき使用したのが、児童の表現ツールiFriend だった。


10.2003 年iFriend からdbook へ

 当時、群馬県小野上小学校の上原永護先生がiFriend を教材提示ツールにすることを発案され、教材作成&プレゼンテーションツールの開発が始まり、作図ツールGCL を組み込んだdbook が完成した。

11.2004 年度CEC e スクェアアドバンスでデジタル教科書とdbook を公開

 2004 年(平成16 年)度CEC e スクェアアドバンスで、「e- 黒板、e- 教科書研究会」の委員となり、電子黒板、デジタル教科書について研究を行った。

 e-教科書研究会では、dbookをプラットフォームにして中学校数学教科書でe- 教科書(=デジタル教科書)を公開した。合わせてdbook を個人使用フリーとしてダウンロードサービスを行った。

12.2005 年版デジタル教科書

 2003 年にデジタル教材を発行するラティオインターナショナルが呼びかけ人となって教科書発行社、教材会社が集まって「IT 活用教材標準化委員会」を結成して何度かの勉強会を行ったのち、2004 年3 月にパンフレット「2005 年からの教科指導」を発行した。そこには、05 年からのデジタル教材を作る決意と教科書改訂期に合わせたデジタル教材の案内を掲載した。

 東京書籍は「デジタル掛図」、光村図書は「光村国語デジタル教科書」だった。

 大日本図書のデジタル教科書は、教師用指導書別冊「IT 活用編」として発行した。プラットフォームはdbook を使用した。

2005 年3月発売の大日本図書小学校算数IT 活用編

13.2011 年dbookPRO へ

 画像の貼り付け、リンク、拡大・縮小などの機能と授業モードと編集モードの切り替えなど大幅な改善を施したdbookPRO をCD付き書「dbookPRデジタル教科書作成入門」として2011 年6月に発行した。

上原永護著 イーテキスト研究所 2007 年刊

 2011 年小学校教科書の改訂期に全社がデジタル教科書を発行した。各社機能的に差は見られなかったが上は78,000 円、下は1 万円台から指導書のおまけという扱いだった。

14.2015 年版デジタル教科書

 2011 年にePUB3 の規格が決まり、日本での電子出版がスタートした。そしてFlash が2020年までにサポートを打ち切ることがアナウンスされたこともあり、2015 年版デジタル教科書は多くの教科書会社がePUB を基本システムとして採用して開発が始まった。しかし電子出版の経験が浅い大手システムハウスに委ねたためか、ePUB 自体の問題点が明らかにされないまま出来上がったものは、インストールにも実行時にも時間がかかる重たいものになった。

 一方、Flush をベースとしていたdbookPROは2015 年版デジタル教科書に採用されることはなかった。

15.アマゾン e 託販売で書籍出版

 2007 年4 月に株式会社イーテキスト研究所を設立し「コンピュータを使わない情報教育アンプラグドコンピュータサイエンス」を発行し、アマゾンe 託販売サービスで販売を始めた。

16,フィックスレイアウトePUB の研究

 紙の出版は、製造費(印刷、用紙、製本)、倉庫料、流通費などのコストがかかる割にはそれに見合う売上を確保することが難しい。電子出版はそのコストがかからないのでフィックスレイアウトePUB をApple iBooks で発行した。しかし、紙以上に売れなかった。

17.Widows 用固定ePUB ビューワ

 学習者用デジタル教科書にはフィックス型ePUB が相応しいとWindows ePUB ビューワSAIBOKU の開発を進めたが、結局固定ePUBの限界を知ることになった。下図はSAIBOKUにバンドルした牧野日本植物図鑑。

18.2020 年に向けた教材開発

 MS-DOS の時代からつくってきたデジタル教材のノウハウはデジタル教科書のイベントづくりに活かされてきた。

 そして、2020 年からの一人1台端末に向けて、今でも連載がつづいている八木澤薫氏の生物写真を植物図鑑として、「わたしたちのからだをしらべよう」「体のしくみ」用に描かれたイラストは「人体図鑑」として現在制作を進めている。